ロスコの「光」

マーク・ロスコ(Mark Rothko)というアメリカの画家をご存じでしょうか。

ロスコは、1903年にロシアのドヴィンスク(現在のラトヴィア共和国ダウガフピルス)に生まれ、10歳の時に一家で渡米。シュルレアリスム風の絵画を経て、1950年代初頭から描き始めた抽象絵画で、一躍有名になります。

大きなカンヴァスに絵具を塗り重ねて地を作り、雲のように茫洋と広がる色面をいくつも浮かべるのが、彼の作品のスタイルでした。そこで使われたのは、マルーン(栗色)と呼ばれる赤茶色や、明るい黄色、深いグリーン、鮮やかなブルーなど。それらは色でありながら、もはや色ではない。独自の質と存在感をそなえた空気であり、静かに放たれる光でもあったのです。

ひとりアトリエに籠もって制作に臨んだロスコは、描いている姿を決して他人には見せなかったため、細かい技法は明らかになっていません。しかし、油絵具を薄く溶いて、幅広の刷毛で画面をさっとなでるように色をつける作業を繰り返し、“染み”があるような絵肌を作っていたことが、当時のアシスタントの証言や科学調査でわかっています。そうすることで初めて、心をざわつかせる幽かな世界が表現できると知っていたのです。

ロスコの作品の前に立つとその絵画空間にすっと吸い込まれ、と同時に、色づいた空気と光が自分の内側に満ちていくのを実感できるでしょう。

絵を見ることの至福—。これほど贅沢なものはありません。

 


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