SALON showcase:藤本由紀夫/Der Kreisel

 

ある哲学者が、いつものように、子どもの遊び場をうろついていた。そして、こまを持った少年を見かけると、その様子をこっそりうかがい、こまが回りだすやいなや追いかけて、それをつかまえようとした。子どもたちが騒ぎ出し、自分らのおもちゃに近寄らせないようにしても、彼はかまわず、回転するこまをつかまえて喜びに浸っていた。だが、それもほんのつかの間。こまを地面に放り投げ、立ち去っていった。彼は信じていたのだ。回転しているこまのようにささやかなものを認識すれば、すべてを認識できるのだと。それゆえ、大きな問題には関わらなかった。不経済に思えたからである。たとえ、ほんのちょっとしたささやかなものでも、それを真に認識することは、万事を認識したに等しい。だからこそ、回転するこまを追いかけたのだ。こまが回される前はきまって、今度こそ成功するだろうという希望を抱いていた。そしてこまが回り始め、息せき切って追いかけるうちに、希望は確信に変わった。ところが、たわいもない木のかけらであるそれを手にしたとたん、気分が悪くなったのだ。それまで聞こえなかった子どもたちの喚声が突然耳に飛び込んできて、追い立てられ、不器用に鞭で打たれたこまのように、彼はよろめいた。

(フランツ・カフカ「こま」1920年/林 寿美訳)

 

今回のSALON showcaseでは、アーティスト・藤本由紀夫(1950-  )が、この短いカフカの小説にヒントを得て「こま(Der Kreisel)」をテーマに手がけた作品をご紹介しています。

「こまというのは不思議なもので、回っている時にしか、こまにならない。止まっている状態では、こまとはいえない」と語る藤本はその在り方に惹かれ、いつしか世界のこまを集めるようになったといいます。一般的にこまと聞けば、ドングリのようなかたちが思い浮かびますが、世界のあちこちには、実に不思議なかたちのこまが存在しています。「何でもかまわないんです。ふと思いついて、何か小さなものを机や地面の上で回した行為が、こまの始まりなのかもしれません」。

これまでも、音や重力、言葉などを扱ってきた藤本ですが、彼が用いるオルゴールやレコードといったレディメイド(既製品)はいずれも、“回転”するという性質をそなえています。こまに惹かれていったのも当然の帰結と言えるでしょう。

 

 

SALONの空間での展示にあたって、藤本は、普段ディスプレイしている商品をそのままにして、そのなかに作品を紛れ込ませたいと考え、美術館やギャラリーではけっして見ることのできない、一風変わった、しかしながらとても親密な空間を実現しました。

その独特な佇まいを見せているのは、カフカの「こま」(原文)を小さな穴で穿った平面作品、回転するこまをとらえたフォトグラム、藤本自身による「こま」まで、全12点です。ここに作家が愛蔵するこまが仲間入り。もちろん、こまはすべて自由に回していただけるようになっています。

もうひとつ、このささやかな展覧会の面白さは、作品が常にその姿を変えることにあります。こまの回転がそれをもたらすのは言うまでもないのですが、光や空気の流れ、さまざまな自然現象が無限の表情を生み出してくれるのです。

あなたがそれを見た時間にしか見えない何かが、そこにあります。

 

 

| SALON talk |
2016年9月3日(土)14:00-16:00
guest:藤本由紀夫
moderator:林 寿美
要予約(メール select@salon-kobe.com もしくはお電話 078-393-1187 にて承ります)/先着20名様/参加費1,000円
 
| SALON showcase |
藤本由紀夫/Der Kreisel
2016年8月18日(木)〜10月10日(月・祝)
11:00-19:00(月・水・木・金)
10:00-17:00(土・日・祝)
火曜日定休(臨時休業あり)
 
主催:サロンアンドアソシエイツ株式会社
協力:パラボリカ・ビス/KYOTO ART HOSTEL kumagusuku/ShugoArts

HAPPY SUMMER SALE